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2009.08.29 *Sat

キングと暴れん坊少女

キングはその日、一人の少女に襲撃されかけた。

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他人より少しだけ身長が高くて、他人より少しだけ強面なだけだ。
そうなったのは俺のせいではないのに、運命の悪戯なのか何なのか。
目障りだとか、ガンつけられたとか思い出せばきりがないほど理不尽な理由で昔から喧嘩を売られ続けてきた。
喧嘩一色の人生、そう言っても過言ではないと思う。

そして、今。
つい先ほど俺を見た瞬間襲いかかってきた数人の男達を全員仲良く地に伏せさせてから、俺は近くの公園で涼んでいるところだった。

「あー…うぜぇ、あつい」

ただでさえ強い日差しと高い湿度、温度のせいで暑いというのに、あの馬鹿者どもに無理やり運動させられたお陰で余計暑くなった。
座っているベンチは丁度良く木陰になっているが熱発散中の身体ではその涼しさも感じることができない。
湿度が高いのがいけないんだよな。湿度さえ低ければ日陰はもっと涼しくなるってのに。
こうまで暑いと無駄にイライラしてしまっていけない。
恐らくその苛立ちが顔に出ていたのだろう。目の前を通り過ぎた子連れの女性が俺を見て顔を青くしたから。
ああもう、イライラする。
苛立ちを溜息を吐いてごまかし、俺は雲ひとつない空を見上げてまた零した。

「あっつ‥」
「みぃ…」

零した言葉に同意するかのようなタイミング。
座っていたベンチの真下からそれは聞こえてきた。
俺としてはそれを見過ごすことはできず、背もたれに預けきっていた身体を起こしてベンチの下を覗くと

「みー」

暑さのせいかぐったりした様子で地面に体を横たえた真白な子猫がつぶらな瞳をこちらに向けていた。
んん?子猫?

「お前、母親は?」
「みゃあ」
「いない?なんでだよ」
「みゃ…」
「突然いなくなった?あー…」

病気か事故で死んだか、保健所につれていかれたか。
この地区は野良の犬や猫の存在をあまりよく思ってないからな。
どっかの住人が保健所に連絡して連れて行かれてしまったのかもしれない。
まあ、どちらにしろ母猫はもう子猫のところには戻ってこない可能性が高いだろう。
子猫の所から消えて数日は経っていることから考えると、もう――。
はあ…遣り切れないな。

「みぃ」
「何だ?」

俺が考え事をしている間にベンチの下から出てきた子猫は、なんと俺の足を上りだした。
足取りが危ないうえに、体がふらふらしていて爪をズボンに引っ掛ける力もあまり残っていなさそうだったが、それでも着実に上へと上っている。
さすが子供とはいえ猫だな。感心しながら見ているとまた落っこちそうになったので、慌てて小さな体を抱き上げた。
太股の上に置いてやると子猫はその大きな目をじっとこちらに向け「みゃぁ」と一声鳴いた。
その鳴き声に俺は目を瞠り、そして頭を撫でてやる。

「そうか…分かってたんか」

毛の流れに沿って頭から体を撫でると子猫は気持ちよさそうに目を細めた。
俺も野良とはいえ、ふわふわで触り心地の良い子猫の毛に癒される。
先ほどまでの苛立ちが嘘のように消え去っていることに気が付いて、アニマルセラピーは効果絶大だなと内心苦笑した。




*



コンビニで買ってきた牛乳を飲んで腹がいっぱいになったのか、子猫が俺の足の上で丸くなってから、持っていた扇子のことを思い出して猫と自分を扇いでいた。
太陽が西に傾きかけているために木陰が広くなって少しだけ涼しさも増したように感じる。
公園独特の静けさが今の俺には丁度良かった。

のだが。

「動物虐待はいけませーん!」

そんな意味不明な大声と背後に殺気を感じて、咄嗟に猫を抱いてベンチから数歩離れる。
眠りを妨げられた子猫は腕の中で何事かと問うて俺に鳴いてくるが、今はそれどころではない。
咄嗟に避けなければ命中していたであろう竹刀に俺は自分の機嫌が悪くなるのを感じた。

「何のつもりだ、お前」

案の定低く唸るようにして出た声に目の前の人物ではなく子猫がびくりと体を竦ませる。
ああ、お前を驚かせるつもりじゃなかったんだ。そう安心させるように子猫を撫でると逆立っていた毛が元に戻った。
ほっ、とひとつ息を吐いて再び襲撃者に目を向ける。
先ほどまで座っていたベンチに靴のまま立っているのは、竹刀を手にした制服姿の、少女。

「……はれ?動物虐待ではなかったですか?」

まじ、ふざけんな。






「や~、私の早とちりでしたあ」

ごめんなさい。そう素直に頭を下げられて完全に毒気が抜けた。
まったく、何なんだこの女は。訝しげな眼で女を見ると女は困ったように苦笑い。

「たはは‥」
「………お前、俺と同じ高校か」

今気がついたが女が来ている制服は俺が通う高校のものだった。
夏服の白のブラウスに赤いリボンをつけていることから1年だということが分かる。

「あ、はい~。蓮見紫紀(はすみ・しき)って言います。はじめまして、宮下煌(みやした・おう)先輩」
「何で俺の名前、」
「先輩はゆーめいです」

蓮見紫紀と名乗った女はふわふわと笑いながらそう言った。
それに俺はなるほど、と頷く。
どうやら俺はどこにいても目立つ存在であるらしく、学校でもそれは同じであると数少ない友人の一人から聞いたことがある。
まったくいい加減にしてほしいが。
またその友人によると、俺が喧嘩一色な人生を送ってきたおかげで巷では『キング』と呼ばれているらしいのだ。
それを聞いた馬鹿たれどもがまた喧嘩を吹っ掛けてくるという悪循環。
なんでそんな名で呼ばれるようになってしまったのか、そう呼びだした奴を殴ってやりたい。

「煌先輩は猫ちゃん好きなんですか?」

俺の太股の上で丸くなった子猫に手を伸ばしながら蓮見が訊ねる。
その問いかけに頷こうとしたとき思わぬところから蓮見に攻撃の手があった。

「にゃ!?」
「あー…」
「みぃっ」

丸まっていた子猫が伸ばした蓮見の手に猫パンチを食らわしたのだ。
大人の猫顔負けの素晴らしい猫パンチだった。

「うにゃー!なんで猫パンチするんですかあ」
「みゃあ」
「さっき驚かされたのを根に持ってるみたいだぞ」
「謝りますから!触らせてくださいよう」

あぐあぐ言いながら子猫に謝っている女子高校生は決してふざけているわけではなく実に真剣であることを述べておこう。
ああ、なんか疲れたな…。

「ああぁぁ…ふわふわだあ~」
「野良猫にしては毛並みがいいだろ?」
「はい~。はにゃあ可愛いよう」

子猫に許してもらった蓮見が子猫を抱きながら緩んだ顔をさらに緩める。
俺は子猫がいなくなって動かせるようになった足を組みベンチの背もたれにそのまま体を預けた。
扇子で風を送りながらちらりと隣りの蓮見を盗み見る。
身長は150半ばくらいだろうか、俺よりも頭二つ分くらい離れている。
のんびりゆるゆるふわふわな雰囲気をまとっていて、見たものを和ませるタイプの人間だ。
かく言う俺も毒気を抜かれたわけだが…。

あ、また猫パンチされた。

「おい、宮下」

猫パンチを食らったっていうのに、それさえも嬉しそうにする蓮見を微笑ましく見守る。
なんか小動物を見ているみたいで癒される気がする。アニマルセラピーか?

「おい、無視すんなっ」
「……あ?んだよ、お前ら」

うるさい奴らだな。俺がせっかく無視してんのに。
っつか誰だよ。

「さっきは俺たちの連れが世話になったみたいじゃねえか」
「は?お前たちの連れ?っつか世話した覚えもねえし」
「‥とにかく世話になったんだ。礼はきっちり返さねえといけないだろ?」

ざっと数十人。男がそんだけ集まると暑苦しいんだが。
そいつらの瞳に浮かぶ色に気がついて俺は深くため息をついた。
どうやら平穏無事に一日を終えられなくなったようだ。

「はら?先輩のお友達ですか?」
「知り合い以下」
「ああ、赤の他人ってやつですか~」
「――ごちゃごちゃ話してんじゃねえよ!」

大勢いた中の一番短気な奴が拳を構えて向かってきた。
俺はとりあえず避けるつもりでいたのだが。

―バチィッ

「いけませんねえ。一人に大勢で向かってくるのは」
「っな…!」

男は自分よりも小さな蓮見に拳を取られたことが信じられないようで。(っていうか俺も信じられないんだが)
その顔に驚きの色を浮かべていたが、蓮見に挑発されてそこに怒りが混じった。

「煌先輩、僭越ながら私も加勢します~」
「は?」

「ほっ、と」という蓮見の声とともに男が勢いよく地面にたたきつけられた。
もっと詳細に語れば、蓮見が男の腕を掴んで引き寄せ足を払った、というところだろうか。
「これは正当防衛ですよお」と笑う蓮見が恐ろしい。
しかし、剣道に加えて柔道とはな…。人はみかけによらない、その言葉は正しかった。

「お前は危ないから向こうに行ってろ」

招かれざる男たちの登場にベンチの上で毛を逆立てていた子猫。
俺のその言葉を聞くと「みぃ」と小さく鳴き、危なげなくベンチから飛び降りて木々の連なるほうへ走って行った。

「さ、始めるか」

平穏な時間を邪魔されて苛立ちは最高潮。
俺は口元をゆがめて男どもを睨みつけた。
男どもは怯んだように少し後退したが。

「せんぱい、そうやって笑うと顔がもっと凶悪になっちゃいますよー?」
「ほっとけ」


その日、公園に野太い悲鳴がいくつも上がったとか…。
そしてこの日から煌に紫紀がまとわりつくようになるのだが、それはまた別の話。

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